西成特区構想には期待できない

大阪市が検討している西成特区構想について、報告書が2012年10月13日に発表された。目を通してみたが、内容は全く期待できない。

問題点を上げてみる。

(1)特区の範囲の問題

まず範囲からして、「西成」と言いながらあいりん地区の問題中心で、範囲があいまいになっている。あいりん地区対策をするならはっきりとそういえばいいものの、推進側の都合に合わせて「西成」「あいりん」を使い分けている印象。

西成区という地域名称は現状、正直言ってあまりイメージが良くない。地名や区の名称へのイメージ悪化の原因は、あいりん地区の支援者やマスコミなどが長年にわたりご都合主義的に「あいりん」を「西成」と宣伝し、またあいりん地区の問題を扱うときに意図的に「西成」と言い換えて「あいりん地区」の意味で「西成」の地名を使い、「西成区はあいりん地区しかない・区全域にあいりん地区が広がっている」かのような間違った印象を与え続けてきたことに根本原因があるんじゃないか。

西成という地名は本来、上町台地の西側に開けた土地という意味からついた、古代からの由緒正しい地名である。元々は大阪市の西部から北部一帯を広く指す地名で、南は粉浜から、北は現在の北区や東淀川区まで含まれていた。大正時代までは西成郡という郡名にもなっていたが、西成郡が大阪市に編入された際に旧西成郡の一部の地域で西成区が設定された。

あいりん地区は西成区全体からみればごく一部の地域でしかない。しかし、まるで「区全域がガラが悪い地域じゃないと都合が悪い」かのように、あいりん地区を「朝から酒を飲んだりギャンブルで身を持ち崩すようなダメ人間が流れ着く場所、生活保護不正受給、それらを食い物にしている貧困ビジネスとその背景にいる暴力団・過激派・カルト宗教、違法薬物や泥棒市など犯罪の温床、犯罪者が潜伏する場所」など、これでもかというほど面白おかしく、まるで無法地帯かのように悪い方向にデフォルメして宣伝し、しかもそれを意図的に「西成区(全域)」かのようにすり替え、マイナスイメージや風評被害はたまたま同じ西成区というだけで天下茶屋・岸里・玉出・津守など他の地域にもなすりつけることがまかり通っている。

西成特区構想を推進する側も、あいりん問題だけは異常に熱心でまるであいりんだけが西成区かのような主張をおこなっていても、あいりん地区以外の西成区のことは知らないし興味もないのではないかという顔ぶれ。これでは「西成区=あいりん地区」という間違った印象だけが固定化されていく。

(2)特区設定自体が差別・偏見助長する恐れ

特区の範囲もあいまいなら、特区の内容もおかしい。通常の特区は特定の課題に対応するものであるが、西成特区構想では西成区自体を「特殊地域」かのように扱っている、しかも16地域ある西成区では地域によって雰囲気や課題は全く違うのに、すべてがあいりん地区かのように扱っている。「特殊地域」扱いされることで、西成区の住民や出身者はただでさえ実態に反する風評被害で嫌な思いをしているのに、そういう風潮が加速し強化されるおそれがある。特区を設定すること自体が、地域差別的な内容に感じる。

(3)住民要求から出発したものではなく、思いつきと小手先の施策だけ

西成特区構想はもともと、大阪都構想推進の中で生まれた。大阪市を解体して特別区に再編すると、商業地を含むごく一部の区は別として、ほとんどの区は財政的に立ちゆかなくなる。特にあいりん地区の生活保護は住民の半数に達し、行政上あいりん地区を含む地域が生活保護受給費で財政が圧迫され、現行行政区であいりん地区を含む西成区が「お荷物」扱いされる事にもなる。もともとあいりん問題は市・府・国の連携で広域的に取り組むものだが、問題を区に押し付け、特別区は近隣行政区合併で設定することを検討しているので「厄介者」をどう扱うかということにもなってくる。

そのために特別対策をとろうとする。しかし対策自体も見当はずれ。範囲の曖昧さについては前述だが、教育・保育バウチャー制度や生活保護受給者の病院指定など見当はずれ甚だしい。また現にいる住民のことは念頭になく、新規住民の転入だけを考えていることも問題であろう。

(4)市が実際にしていることとの乖離

西成特区構想では、子育て特区やら文教特区やらという市側の宣伝やマスコミ報道も目立つ。しかし実際にしていることは子育て環境の悪化でもある。

一つ目は、大阪市立住吉市民病院の統廃合問題。立地自体は住之江区にあるが、西成区との境界付近に位置し、西成区からの利用も多い住吉市民病院。同病院は産婦人科や小児科を設置する大病院で、周産期医療や小児医療の拠点となっている。20年前に母子センターが廃止されて以来区内に分娩できる産婦人科がなくなった西成区の子育て世代にとっても重要な位置を占める病院でもある。

住吉市民病院を廃止し、住吉区の府立急性期総合医療センターに機能統合する計画が、橋下市政になってから進められている。しかし急性期総合医療センターは患者受入が限界近くに達し、検査を申し込んでも数カ月待ちという苦情も寄せられているという。また住吉・住之江・西成・阿倍野・東住吉・平野の6区で構成される大阪市南部医療圏では、管内で発生した小児救急を管内の病院で受け入れられる率は3分の1にとどまり、他地域への転送を余儀なくされている。

病院統廃合推進側の主張としては、統廃合で機能が向上し隣接医療圏も含めた充実につながると言っている。しかしただでさえ既存病院が受け入れ困難な状況の元、受け入れ可能病院を物理的に減らして受け入れ態勢が強化されるのか、極めて謎である。住吉市民病院廃止では、出産や小児医療に大打撃を与えるのは目に見えている。

さらに西成特区構想報告書発表と前後して、西成区津守にある大阪市立津守幼稚園の問題も報じられた。津守幼稚園は「定員充足率が低い」として5年前から廃園が検討され、市は廃園ありきの対応をとり、園関係者や地元住民が反対運動をおこなってきた。市側は2013年度より園児募集停止の方針を打ち出し、存続したければ住民に園児を集めるよう求め、住民側が定員の7割の入園希望者を集めたとして13年度の募集(12年秋募集)は通常通りおこなうことにした。

そもそも本来、行政主導でおこなうべき市立幼稚園の園児募集を、廃園ありきの市が園児募集に消極的で、住民に押し付けること自体が筋の通らない話ではある。

行政側は、西成区の他の3幼稚園(市立2・私立1)で、津守幼稚園を廃止しても区内の園児の需要はまかなえると判断している。確かに数字上はそうかもしれない。だが各幼稚園の立地を考えると単なる数合わせに過ぎず現実的ではない。

西成区の他の3幼稚園の立地場所は、区の南端、区の南寄り、区の東端となっている。一方で津守幼稚園は区の西端に立地する。区の西部や北西部では、通園可能区域内にある唯一の幼稚園が津守幼稚園ということにもなり、同幼稚園が廃止されると西成区西部・北西部は幼稚園の空白地帯ということにもなる。片道2~3キロの距離を通うなど、大人の通勤や高校生の通学ならともかく、幼稚園の通園には現実的ではない。

近くに学校・幼稚園・保育所や、定評のある産科・小児科病院などがあることも、子育て世代が住む場所を選ぶ大きなポイントの一つである。逆に言うと、そういう条件がない地域は敬遠されることにもなる。子育て世代を呼び込むと宣伝する一方で、子育て世代が住所を選ぶ大きな要因の一つとなる施設をなくすことは、ちぐはぐである。

【問題解決の方向性】

西成区問題とされるものの実態は「あいりん問題」であり、根本にはあいりん地区を食い物にしている貧困ビジネスとその背景にある勢力の問題があるのではないか。そういう犯罪や不正の問題をはじめ「あいりん問題」は、問題を西成区だけに押し付けるのではなく、大阪市や大阪府・国のレベルで取り組むべき問題ではないか。

そこには手を付けずに、無関係の西成区民を不当に攻撃しても事態は悪化するだけだと感じる。また特区という形ではなく、西成区に限らずどこの地域でも共通する問題だが、住民の意見をじっくり集約し、地に足をつけたまちづくりの取り組みこそが重要ではないか。


(続き)→西成特区シンポジウムでの住民の意見(2012年11月12日)

コメント

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