維新の街頭演説に遭遇して感じたこと

先日、大阪市西成区の岸里付近を通りかかると、大阪維新の会の街頭演説に遭遇しました。

大阪都構想について「西成区は区割り案では、中央区・天王寺区・西区・浪速区と一緒になります。大阪の中心部になります。皆さん、これまでは西成区というだけでイメージが悪くて差別をされて嫌な思いをしてきたと思います。そういうことをなくしていくのが大阪都構想です。そのために橋下徹と大阪維新の会は頑張ってまいります」と訴えていました。

たしかに岸里や玉出あたりの西成区南部だと、長年住んでいる自分も家族も近所で見たこともないような、どこの別世界の話かと思うような「西成」のイメージを、まるで見てきたかのように勝手に「これがお前の地元だ」と決めつけられて、ごちゃごちゃと絡んでくる心ない人間のせいで嫌な思いをするという話はよく聞きます。

ノーベル賞を受賞した学者が育った街、大フィルの練習場がある街、著名な歌手や文化人が育ったり住んでいた街、セレッソ大阪の練習場がある街、「ふたりっ子」などテレビドラマのロケ地にもなった街、有名な飲食店が複数ある街・・・西成区がこういうイメージで語られることは皆無に近い。

その代わりにあいりん地区の支援者やマスコミを中心に、あいりん地区のおかしな現象やおかしなことをしている人たちのイメージを、地名の範囲が全く異なる「西成」の区の名前に結びつけ、悪いイメージを振りまく傾向があります。

生活保護不正受給、暴力団、貧困ビジネス、犯罪者の潜伏場所、泥棒市、暴動、ゴミ不法投棄など、無法地帯かのようなあいりん地区のイメージを、あいりん地区の支援者やマスコミ等は「西成」と言い変えたがる傾向があると感じます。テレビや新聞でも、あいりん地区の極端な映像を出して「西成」と繰り返しナレーションをかぶせたり、テロップを出したりなどを平気でしています。

あいりん地区はあくまでもあいりん地区で、数百メートル四方の範囲でしかありません。数キロ四方、16地区・32町に分かれている西成区全域があいりん地区と同一視されるいわれはありません。

西成区の住民、特に天下茶屋・岸里・玉出や天神ノ森など南側の地域で普通に生活している住民に対する風評被害であり、地域差別に近いものになっていると言えます。

西成区出身・在住というだけで勝手に「おかしな人」「下品な人」「かわいそうな生育歴の人」と決めつけたりする心無い人の話も見聞きします。中には、西成区出身・在住の人から違うと指摘されると、自分の偏見に合わなかったからといって逆ギレするようなものまでいますが、地域差別だと言えます。

一方で、西成区の出身・在住を自称し、ごく一部の地域のごく一部の階層の現象を勝手に西成区全域の現象のようにすり替えて宣伝したがるような人間も、残念ながらいます。

西成区出身と称するジャーナリストのブログで、「筆者は西成区出身だが、暴動・暴力団…の街」などと、これでもかと悪いイメージを書き連ねたのを見たことがあります。はっきり言って事実無根のデタラメに近い。

また西成出身を売りにしているミュージシャンが地元愛を自称するような歌と見せかけて、実際は「ゲットー」だとか悪いイメージの単語を歌詞に織り交ぜたりプロモーションビデオではあいりん地区の映像ばっかりとかも見たことがありました。

また一部の地域の一部の現象を「支援する」ことに興味を持ってよそからやってくるものの、当然の事ながらそういうのばかりではなく普通の住民の方が多い。そこで自分たちの理想とする「弱者」像に合わない、普通に生活している住民に対して、勝手に敵視したり存在を無視したりして、自らの偏見を振りまこうと攻撃するような者もいます。

大阪全体における吉本興業やみかん山プロダクションと同じく、ステレオタイプ的な人間像・地域像を強調したいのでしょうが、迷惑な話です。

隣の住吉区や住之江区・阿倍野区などなら、出身地や地元の話題になった時に別に過剰に食い付く人はそんなにいないでしょう。「へえ。ふーん」程度で済むでしょう。しかし西成区というだけで、勝手に変なイメージと結び付けられた上に、特殊な地域のように過剰に食いついて騒ぐ人間がいる、そのことが迷惑だと言えます。

大阪市内だとどこにでもあるような街なのに、勝手に食いついてよその地域の変な話題を結び付けられて嫌なことをごちゃごちゃ言われるのではなく、普通の街の住民や出身者として静かに暮らしたいという思いでしょう。

大阪維新の会の演説の話に戻ると、「西成区の地域自体が、また西成区在住や出身の人が、あいりん地区のせいで、西成区全域があいりん地区と同一視されて、その間違った前提で事実に反することをゴチャゴチャと騒ぎ立てられて、地域差別レベルのひどい扱いをされている」という問題意識自体は、間違ってはいないでしょう。

大阪府議会本会議 2013年10月8日 維新・置田浩之府議(阿倍野区選出)の代表質問

…あいりん地区は、大阪のマイナスのイメージを象徴するエリアと言えます。かつて、暴動が起こった危険なまち、あるいは路上生活者のテントが建ち並んでいる汚いまちなどの、このあいりん地区に対するマイナスのイメージが、西成区や大阪市、さらには大阪というまち全体に対するイメージを不当におとしめていると考えております。

この部分だけ取れば、全くその通りです。

しかし、維新が推進する大阪都構想や、それに関連して出された西成特区構想で、問題が解決するわけではありません。逆に大阪都構想や西成特区構想で、西成区への偏見を広めたり強めたりする役割を果たしていることになります。

大阪都構想は、大阪市を解体して複数の特別区に再編する計画です。再編は現行行政区の区域を分割せずに、近隣行政区を合併する前提です。

その際にあいりん地区の生活保護問題などで、あいりん地区を含む新特別区が財政が圧迫されるとして、現行の大阪市の行政区であいりん地区を含む西成区が厄介者扱いされる事になり、西成特区構想が打ち出されました。

しかし西成特区構想では、あいりん地区の問題と行政区としての西成区を故意に混同し、あいりん地区対策を「西成」と言い換えています。これらはあいりん地区の人間がこれまでやってきた、西成区への風評被害の押し付けと同じ発想です。これらの結果、西成区には「区全体が悪い地域」かのような風評被害だけが押し付けられて強められる形になります。

橋下徹自身が、西成区とあいりん地区を故意に混同し、西成区全域が悪い街とでも言いたげな、偏見に基づく攻撃を繰り返しています。

大阪市会 2012年1月19日 決算特別委員会 日本共産党・尾上康雄議員(西成区選出)の質問

◆尾上康雄委員 …私は西成区で生まれ育ちまして、今はこうして市会議員をして市政に携わるということで、本日御参加の皆さんとはちょっとやっぱり西成区の認識では違うかもしれません。また、そやけども西成区選出の市会議員、府会議員の皆さん、委員長もそうですけど、一緒の行政区なんで、思いとしては多分私は一緒だと思うんですけども、西成区というところ、これは都会の中心地にありながらとにかく物価が安い、ほんで住みやすい、しかも人情が温かい、これが大体セットで我々が語っている西成区なんです。そういう意味で、西成が変われば大阪、日本が変わるという中身は私が好きな表現です。だから、それだけ西成区に対するいろんな偏見もこれまでも、今もまだそういう意味では残っているという意味で、そのことに対して西成を変えるという橋下市長の意見というか考えというのは、当然私もそれ自身はいいことだというふうに思ってるんですよ。
そこで問題は、あいりん地域だけと違うて西成区の現状について、いろんな課題もありますけども、今も言いましたように西成区のいいこともあるので、そういう西成の現状についての認識というか、そこはどうでしょうか。
◎橋下市長 何の議論をしてるのかがさっぱりわかんなくて、これだけみんな人件費をかけて集まってるんですからきちっと議論させてもらいたいんです。
西成がいいか悪いかと言われれば、それはほかの区と同じように、いい部分もあれば悪い部分もあると。僕が問題意識を持ってるのはあいりん地区、またその周辺部をどうするかということでして、そこを、いや別にあのままでいいんですよと、すばらしいまちですよと、あいりん地区、あの周辺部、何も問題ないですよという認識からいくのか、やっぱり何とかあそこは力を入れて変えていかなきゃいけないのかという、その認識の違いだと思うんです。
どの都市でも、リーダーが力を入れて、それはニューヨークもそうでしたよ、ジュリアーニ市長がそうでしたし、ロンドンでもボリス・ジョンソンですか、その前からですか、リビングストンのときからもそうですけども、大ロンドン市長が誕生してからやっぱり都市のそういういろいろ状況というものを改善するのに力を入れた。ソウルだって李明博大統領がソウル市長のときに相当力を入れたと。だから、その力を入れるということを言ってるのに、それはイメージが悪くなるとか、結局何がおっしゃりたいんでしょうか。

尾上市議は、西成区はあいりん地区一色のイメージではないということを強調し、あいりん地区限定の話題ではなく行政区としての西成区全域について質問しています。

一方で橋下は、西成区=あいりん地区=区全体がガラが悪いという偏見しかないから質問の意味を全く理解できず、あいりん地区はこのままでいいと尾上市議が言ったと勝手に曲解して、「何の議論をしてるのかがさっぱりわかんなくて」「何がおっしゃりたいんでしょうか」と見当外れなことになっています。

また橋下ツイッターでは2012年4月、西成区役所を視察した際「セキュリティの関係で自由には行動できません。街の状況は車上視察となりました。」と、まるで西成区は車から降りられない危険地帯と印象付けるような物言いもおこなっています。

維新の議員や支持者が、大阪都構想やそれに付随する西成特区構想をそのまま認めることは、西成区への偏見を振りまくことになるだけでしょう。

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